平日の睡眠不足を取り戻そうと、休日にたっぷり寝る「寝だめ」。一見体に良さそうに思えますが、実は“逆効果”になるケースが多いのをご存じでしょうか。体内時計の乱れや睡眠リズムの崩れを引き起こし、日中の集中力低下やだるさ、さらには生活習慣病のリスク上昇につながることもあります。
この記事では、寝だめがもたらす主な5つのデメリットとその理由をわかりやすく解説し、休日でも体に負担をかけずに疲れをリセットする「賢い休み方」についても紹介します。
この記事の監修者
身長175㎝/体重62㎏。眠ハックの運営者。睡眠で悩む人の相談を受けたり講習会を通して睡眠の大切さを世に広める活動をしている。マットレスや枕選びはYouTubeで好評受付中。
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寝だめとは?多くの人がやりがちな“休日の過ごし方”
「平日は忙しくて睡眠時間が足りないから、休日は思い切り寝よう」──そんな“寝だめ”は、多くの人が無意識のうちに行っている習慣です。
一般的に寝だめとは、平日に不足した睡眠時間を休日にまとめて取り返そうとすることを指します。朝遅くまで寝たり、昼まで布団の中で過ごしたりする行動がそれにあたります。
一見すると体の疲れが取れるように思えますが、実はこれは本来備わっている体内時計(サーカディアンリズム)を大きく乱す行為でもあります。人間の体は、起床や就寝、ホルモン分泌、体温などを約24時間周期でコントロールしていますが、休日だけ起床・就寝時刻がズレると、このリズムが狂いやすくなります。
結果として、「月曜の朝がつらい」「夜なかなか寝つけない」といった“社会的時差ボケ”の状態になり、睡眠の質や日中のパフォーマンスがかえって低下することも少なくありません。
つまり、寝だめは「足りない睡眠を取り返す方法」ではなく、「リズムを崩してしまう行動」になる可能性があるのです。
寝だめに潜む5つのデメリット|実は体に悪影響も
休日の寝だめは、一時的に「よく眠れた」と感じるかもしれませんが、実は体にとってさまざまな悪影響を及ぼすことがわかっています。特に次の5つは、多くの人が見落としがちな注意点です。
①体内時計が乱れて睡眠リズムが崩れる
人間の体は、約24時間周期で動く「体内時計」によって睡眠やホルモン分泌がコントロールされています。休日だけ起床・就寝時間が遅くなるとこのリズムがずれ、“社会的時差ボケ”とも呼ばれる状態に。週明けの朝がつらく感じたり、夜の入眠がスムーズにいかなくなる原因になります。
②睡眠の質が下がり、逆に疲れが抜けない
長時間眠っても途中で浅い眠りが増えたり、レム・ノンレムのリズムが乱れたりして、睡眠の質が低下することがあります。結果として「たくさん寝たのにだるい」と感じたり、昼間に眠気が出やすくなることも。
③自律神経が乱れやすくなる
不規則な睡眠は交感神経と副交感神経のバランスにも影響します。休日明けに集中力が落ちたり、気分が安定しないと感じる場合は、寝だめによる自律神経の乱れが関係している可能性があります。
特に、体内時計が乱れると、交感神経が切り替わるタイミングやホルモン分泌のリズムがずれ、朝起きてもスッキリしない・集中力が続かない・気分が不安定になるといった不調につながりやすくなります。また、自律神経の乱れは免疫力の低下や血圧変動などにも影響し、健康リスクを高める可能性も指摘されています。
実際、Sleep Health(2022)に掲載された研究では、睡眠スケジュールの不規則さと自律神経機能の低下との関連が報告されており、休日と平日の起床時刻が2時間以上ずれている人は、そうでない人に比べて心拍変動(HRV)が低く、自律神経の柔軟性が低下している傾向が示されています。こうした変化は、日中のパフォーマンス低下やストレス耐性の低下にもつながると考えられています。
④生活習慣病や肥満のリスクが高まる
最新の研究では、睡眠時間の不規則さが代謝異常や肥満、糖尿病のリスク増加につながる可能性があることが報告されています。休日だけ睡眠リズムが乱れる生活を続けるのは、長期的に見ると健康リスクになり得ます。
“Irregular sleep and cardiometabolic risk: Clinical evidence and perspectives” というレビュー論文では、睡眠不足や睡眠・覚醒リズムの乱れが、インスリン感受性の低下、炎症、食欲調節ホルモンの異常などを通じて、肥満や2型糖尿病などのリスクを高める可能性を指摘しています。
⑤夜の寝つきが悪くなり、悪循環に陥る
休日に遅くまで眠ると、夜に寝つけず就寝時間がさらに遅れるという悪循環に陥りやすくなります。これが繰り返されると、平日の睡眠不足が慢性化し、寝だめが必要な生活から抜け出せなくなってしまいます。
「たくさん寝たのに眠い」のはなぜ?体内時計のズレが原因
休日に「たっぷり寝たのに、まだ眠い」「逆にだるさが抜けない」と感じた経験はありませんか? これは単に“寝すぎた”からではなく、体内時計(サーカディアンリズム)のズレが関係している可能性が高いです。
人間の体は、約24時間周期で体温やホルモン分泌、眠気のリズムをコントロールしています。毎日同じ時間に起きることでこのリズムは整いますが、休日に寝坊して数時間ズレると、体が「時差ボケ」のような状態になってしまいます。これが、長く眠ったはずなのに頭が重い・集中できないといった不調につながるのです。
さらに、起床時間が遅れると夜のメラトニン分泌も遅れ、夜になっても眠気がこない → 寝つきが悪くなる → 翌朝また起きられないという悪循環にも陥りがちです。この状態を放置すると平日の睡眠リズムにも影響が及び、「慢性的な睡眠負債」を抱えやすくなってしまいます。
つまり、「たくさん寝たのに眠い」というのは“眠りが足りない”のではなく、“体の時計がズレている”ことのサインです。休日でも平日との差を1~2時間以内に抑えるだけで、こうした不調は大きく減らせます。
寝だめで太る?生活習慣病リスクとの意外な関係
「寝だめすると太る」と聞くと意外かもしれませんが、実は休日だけ睡眠リズムが乱れることが、体の代謝に悪い影響を与えることがわかっています。ポイントは「長く寝ること」そのものではなく、睡眠時間や起きる時間がバラバラになることです。
人の体は、ほぼ24時間のリズムに合わせてホルモンや体温、代謝の働きをコントロールしています。ところが、休日だけ朝遅くまで寝るとこのリズムがズレ、食欲を抑えるホルモンや血糖値を調整するホルモンがうまく働かなくなることがあります。その結果、脂肪をため込みやすくなったり、血糖値が上がりやすくなったりして、太りやすい体質につながってしまうのです。
実際の研究でも、睡眠時間が不規則な人ほど肥満や糖尿病、高コレステロールのリスクが高いことが報告されています(Wang et al., Sleep, 2019)※。「寝だめ」は短期的に疲れが取れたように感じても、長く続けると代謝のバランスを崩し、生活習慣病のリスクを上げる可能性があるという点は覚えておきましょう。
※補足
この研究(Wang et al., Sleep, 2019)では、睡眠時間や起床時刻のばらつきが大きい人ほど、肥満・高血糖・高コレステロールのリスクが高くなる傾向があることが示されました。つまり、「寝だめ」などによって休日だけ生活リズムがズレる習慣は、代謝機能の乱れにつながる可能性があるという重要な示唆を与えています。
休日の寝だめをやめられない人が陥りがちな悪循環
「寝だめは良くないと分かっているけど、つい休日は遅くまで寝てしまう…」という人は少なくありません。実はその“つい”が、睡眠リズムの乱れを繰り返す悪循環の始まりです。
まず、休日に朝遅くまで寝てしまうと、体内時計が後ろにズレて夜の眠気が訪れる時間も遅くなります。すると就寝時間がずれ込み、日曜の夜はなかなか寝つけない…という状態に。そして翌朝は寝不足のまま週が始まり、平日に睡眠負債が溜まるのです。
この状態が続くと、週末には疲れがピークに達して「また寝だめしたい」という欲求が強まり、“睡眠不足 → 寝だめ → 体内時計のズレ → 再び睡眠不足”という負のループが止まらなくなります。
さらに、こうしたリズムの乱れは睡眠の質だけでなく、集中力やメンタルの安定、ホルモン分泌や代謝にも影響を及ぼします。つまり、「休日にちょっと寝坊しただけ」のつもりが、実は1週間のパフォーマンスや健康全体に影響を及ぼしている可能性があるのです。
寝だめの“メリット”とその限界も知っておこう
ここまで寝だめのデメリットを中心にお伝えしてきましたが、実はまったく意味がないわけではありません。正しく取り入れれば、寝だめにもいくつかのメリットがあります。
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- 睡眠不足が続いたときの一時的な疲労回復ができる
- 集中力や気分が整い、ストレス軽減につながる
- 睡眠負債をある程度リセットする効果がある
- 体調が大きく崩れるのを防ぐ応急処置になる
たとえば、平日にどうしても睡眠が足りなかった場合、休日に少し長めに眠ることで疲労の回復や集中力の向上が期待できます。極端な睡眠不足が続いているときは、体の修復や脳の整理が追いついていない状態になっているため、一定の「補い睡眠(キャッチアップスリープ)」が役立つこともあります。気分転換やストレス解消という面でもプラスに働くでしょう。
ただし注意したいのは、寝だめはあくまで一時的な対処法にすぎないという点です。休日にいくら寝ても、崩れた体内時計まではリセットできず、生活リズムが乱れたままでは睡眠の質は根本的に改善しません。特に平日との起床時間の差が大きくなるほど、体のリズムが狂いやすくなり、かえって疲れが取れにくくなることもあります。
つまり寝だめは、「どうしても寝不足が続いたときの応急処置」にはなっても、「日常的な睡眠不足の解決策」にはならないということ。大切なのは、日々の睡眠リズムをなるべく一定に保つことなのです。
健康を崩さないための「賢い休日の過ごし方」とは
健康を崩さないための「賢い休日の過ごし方」とは
寝だめによる悪循環を断ち切り、体内時計を乱さずに休日を過ごすためには、次のポイントを意識することが大切です。
ポイント
- 起床時刻は「平日+1〜2時間以内」に抑える
休日でも、平日の起床時間との差が大きくなるほど体内時計はズレやすくなります。遅くても2時間以内にとどめるのが理想です。 - 前日に「早寝」で調整する
寝不足が気になる場合は、休日に朝寝坊するのではなく前夜に早めに寝る方が体内時計を乱しにくく、睡眠の質も保ちやすくなります。 - 午後の昼寝は20〜30分以内に
昼間の眠気が強いときは、20〜30分の短い昼寝(パワーナップ)がおすすめ。長すぎる昼寝は夜の入眠を遅らせてしまうため注意が必要です。 - 朝日を浴びて体内時計をリセット
起きたらすぐにカーテンを開けて朝日を浴びることで、体内時計がリセットされ、夜の眠気もスムーズに訪れやすくなります。 - 就寝前のスマホ・カフェインを控える
休日も「寝る前2時間はスマホや強い光を見ない」「午後はカフェインを控える」といった習慣を意識すると、睡眠の質がより高まります。
まとめ|寝だめに頼らず“睡眠負債”を溜めない習慣を
休日の「寝だめ」は一時的な疲労回復には役立つものの、体内時計のズレや睡眠リズムの乱れ、自律神経や代謝への悪影響など、思わぬデメリットを招くリスクもあります。特に「たくさん寝たのに眠い」「月曜の朝がつらい」といった不調は、睡眠不足ではなく“体の時計がズレているサイン”かもしれません。
大切なのは、休日だけで帳尻を合わせるのではなく、平日から睡眠負債を溜めない生活習慣をつくることです。起床時間を大きく変えない、夜のスマホを控える、朝日を浴びて体内時計をリセットする――こうした小さな工夫が、睡眠の質と健康を大きく変えていきます。
「寝だめしないとやっていけない生活」から、「寝だめしなくても元気な生活」へ。そんな習慣を今日から少しずつ整えていきましょう。
今 真一