マットレスの仕様表には「コイル線径」「コイル数」「巻き数」といった専門的な数字が並んでいます。これらは寝心地や耐久性を大きく左右する重要な要素ですが、意味を正しく理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
私は上級睡眠健康指導士として、多くの方にマットレス選びのアドバイスをしてきましたが、「数字だけを見て硬い/柔らかいと判断して失敗した」というご相談を受けることもあります。実は、線径の太さ・コイル数の多さ・巻き数の違いを総合的に理解することで、自分に合ったマットレスを選ぶ精度が格段に上がるのです。
本記事では、マットレス専門家の視点から、コイル線径・コイル数・巻き数の基礎知識と、それらが寝心地や耐久性にどう影響するのかをわかりやすく解説します。仕様の見方が理解できれば、マットレス選びで後悔するリスクを大幅に減らせるはずです。
この記事の監修者
身長175㎝/体重62㎏。眠ハックの運営者。睡眠で悩む人の相談を受けたり講習会を通して睡眠の大切さを世に広める活動をしている。マットレスや枕選びはYouTubeで好評受付中。
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コイルマットレスの仕様表はなぜ重要?
マットレス選びをするとき、カタログや公式サイトに必ず載っているのが「仕様表」。一見すると専門的な数字や用語が並んでいて分かりにくいですが、この仕様表こそが寝心地や耐久性を左右する最重要情報です。表面の感触やデザインだけで判断すると、購入後に「思ったより硬かった」「柔らかすぎて腰が痛い」といった失敗につながりかねません。
スペック表を見る意味
仕様表はマットレスの「設計図」のようなものです。
特に線径(ワイヤーの太さ)・コイル数・巻き数は、寝心地・体圧分散性・耐久性を数値として示してくれる指標。つまり、「自分の体型や寝姿勢に合うかどうか」を事前に判断できる手がかりになります。
「線径・コイル数・巻き数」は寝心地・耐久性を左右する3大要素
コイルマットレスの仕様を見るうえで、まず押さえておきたいのがこの3つ。
線径・コイル数・巻き数
- 線径(ワイヤーの太さ)…コイルの反発力や硬さを決める
- コイル数…体をどれだけきめ細かく支えられるかを決める
- 巻き数(ターン数)…柔らかさやフィット感を左右する
この「3大要素」を理解すれば、硬めか柔らかめか、自分の体型に合うかどうかの目安が分かるようになります。
さらに圧縮率・高さ・素材で性能が決まる
3大要素に加えて、上級モデルや専門メーカーの仕様表には次のような情報が載ることもあります。
追加で指標となる要素
- コイル圧縮率:どれだけ強い反発力を持たせているか
- コイルの高さ:クッション性や沈み込み感を決める
- マンガン含有量など素材特性:耐久性・へたりにくさを左右する
これらは一見細かい仕様ですが、長期使用での快適性や寿命に大きな差を生みます。つまり「線径・コイル数・巻き数」で寝心地をつかみ、「圧縮率・高さ・素材」で耐久性やグレードを見極めるのが、マットレス選びを失敗しないためのポイントです。
コイル線径とは?ワイヤーの太さが硬さを決める
コイル線径とは、マットレスのスプリングを形成するワイヤー(鋼線)の太さを指します。一般的には 1.2mm〜2.2mm の範囲で設計されており、このわずかな数値の差が寝心地や耐久性に大きく影響します。
線径の定義(1.2mm〜2.2mmが一般的)
- 1.2〜1.4mm前後 … 細いワイヤー。柔らかい寝心地を実現し、体を包み込むような感覚が得られる。
- 1.6〜1.8mm前後 … 中間的な太さ。硬さと柔らかさのバランスが良く、万人向け。
- 2.0mm以上 … 太いワイヤー。反発力が強く、沈み込みを防ぎ、耐久性も高い。
コイル線径はマットレスの「硬さ」を大きく左右する要素です。一般的には1.6〜1.8mmが標準ですが、わずか0.2mmの差でも体感が変わるため、体型や好みに合わせて慎重に選ぶ必要があります。
細い線径の特徴(柔らかい・体圧分散性重視)
- 肩や腰がしっかり沈み、圧力を分散できる
- 包み込まれるようなフィット感がある
- ただし、ワイヤーが細い分、耐久性や反発力はやや劣る
細い線径は、体重が軽い人や横向き寝が多い人に適しています。特に肩や腰など突出部位が沈み込みやすくなるため、圧迫感を軽減して血流を妨げにくいのが特徴です。一方で、反発力が弱いため寝返りが打ちにくく、長期使用ではスプリングがヘタりやすい傾向があります。
太い線径の特徴(硬め・耐久性重視・腰痛対策向け)
- 強い反発力で沈み込みを防ぐ
- 腰や背中をしっかり支えるため、腰痛持ちや体重のある人におすすめ
- 耐久性が高く、長期使用にも強い
- 一方で、細身の方や横向き寝中心の方には「硬すぎる」と感じる場合もある
太い線径は、しっかりと体を支える安定感が魅力です。特に腰回りの沈み込みを防ぐため、腰痛に悩む人や体格の大きい人に向いています。ただし、細身の人が使うと反発が強すぎて体圧分散性が弱まり、肩や腰に負担を感じることがあります。
体型・寝姿勢別の線径選びのポイント
- 体重が軽い/女性/子ども
→ 細め(1.2〜1.4mm)でフィット感を重視 - 標準体型/仰向け寝中心
→ 中間(1.6〜1.8mm)でバランスを取る - 体格が大きい/男性/腰痛持ち
→ 太め(2.0mm以上)で沈み込みを防ぐ - 横向き寝が多い人
→ 細めを選ぶと肩の圧迫感が軽減されやすい
線径の選び方は「好み」だけでなく、体重・体型・寝姿勢によって適性が異なります。軽量の方は細めで快適に、体重が重い方は太めで支えを強く、横向き寝が多い方は肩の沈み込みを意識して細めを選ぶのが基本です。自分の睡眠姿勢を振り返り、線径の数値と照らし合わせることで、失敗しない選択ができます。
コイル数とは?支える精度を左右する本数
コイル数の基本
- コイル数が多い=きめ細かい体圧分散
- コイル数が少ない=硬め、沈みにくい
- シングルサイズで400〜1000個が目安
マットレスに使われているコイルの本数は、そのまま「体を支える精度」を示します。コイル数が多ければ、それだけ多くの点で体を受け止めることになり、寝心地がより繊細に。逆にコイル数が少ないと点の数が減るため、支えが大きな面になりやすく、やや硬めの寝心地になります。
コイル数が多いメリット・デメリット
○メリット
・点で支える数が増えるため、体圧分散性が高まる
・肩や腰などの突出部をやさしく受け止め、血流を妨げにくい
・寝姿勢が安定しやすく、横向き寝にも適している
△デメリット
・コイル数が多い分、コストがかかり価格が高くなりやすい
・コイルが細めで数を増やしている場合、反発力や耐久性がやや低くなることもある
つまり「コイル数が多い=必ずしも上位モデル」というわけではなく、線径や巻き数との組み合わせで寝心地が決まります。
価格との関係
コイル数が多いマットレスは、その分だけ材料費や製造コストがかかります。そのため、同じサイズでも500個のコイルより1000個のコイルを使ったマットレスの方が高価になるのが一般的です。
ただし、単にコイルを増やせば良いというわけではなく、線径やコイル高さとのバランス設計が重要。コイル数が少なくても太い線径を使えばしっかりと体を支えられる場合もあるため、「価格=品質」とは限らない点を理解しておく必要があります。
巻き数(ターン数)とは?寝心地のきめ細かさを生む要素
巻き数の基本
- 巻き数の定義:5〜7巻が一般的
- 少ない巻き数=反発力が強い
- 多い巻き数=柔らかくフィット感が増す
コイルの巻き数とは、ワイヤーが何回巻かれているかを示す数字です。一般的には5〜7巻が採用されており、巻き数が変わることでバネのしなやかさや反発力が大きく変化します。少ない巻き数ではバネが直線的に反発するため硬めの寝心地に、多い巻き数ではしなやかに変形して体を包み込むような柔らかさを生み出します。
線径との組み合わせ例
- 太い線径 × 巻き数少なめ → 強い反発力で硬めの寝心地。体重が重い人や腰痛対策に有効。
- 太い線径 × 巻き数多め → 支えは強いが、クッション性も加わりバランス型に。
- 細い線径 × 巻き数少なめ → 柔らかさは控えめで、やや頼りなさを感じることも。
- 細い線径 × 巻き数多め → 包み込まれるような柔らかさが最大化され、横向き寝に適する。
巻き数は単独で寝心地を決めるのではなく、線径やコイル数との掛け合わせで初めて意味を持つ要素です。メーカーごとのチューニングに注目すると、同じ線径でも寝心地が大きく違うことがあります。
コイル圧縮率とは?反発力をコントロールする指標
コイル圧縮率の基本
- 圧縮率が高い=反発力が強く硬め
- 圧縮率が低い=ソフトな感触
- 線径・巻き数との組み合わせで寝心地が大きく変化
コイル圧縮率とは、スプリングを製造段階でどの程度まで圧縮して組み込んでいるかを示す数値です。圧縮率が高ければ、コイルは常に強い張力を持つため反発力が大きくなり、硬めの寝心地に。逆に圧縮率が低いとスプリングのたわみが柔らかくなり、包み込まれるような感触が得られます。
コイルの高さとは?沈み込みとクッション性に直結
コイル高さの基本
- 高さがあるコイル=クッション性が高い、ふんわり感
- 低いコイル=安定感・硬めの感触
- 一般的には16〜20cm、高級品では23cm以上も存在
コイルの高さとは、スプリングそのものの縦方向の長さを示す数値です。高いコイルは大きくたわむことができるため、体をやわらかく受け止めるクッション性が高く、ふんわりとした寝心地になります。一方、低いコイルは沈み込みが少なく、しっかりとした安定感や硬めの寝心地を実現します。
一般的なポケットコイルの高さは16〜20cm程度で、多くの標準的なマットレスに採用されています。高級ラインでは23cm以上の「ハイプロファイルコイル」を使用することもあり、より豊かなクッション性や高反発のしなやかさを両立させています。ただし、コイルが高くなるほどマットレス全体の厚みや重量が増える点には注意が必要です。
スプリング素材とマンガン含有量
素材と品質の基本
- コイルは「硬鋼線(SWRH)」が主流
- マンガン含有量が多いほど耐久性・弾性が高い
- 高級モデルは素材グレードを明示して差別化
マットレスのコイルに使用されるのは、主に**硬鋼線(SWRH:Steel Wire Rod for Hard drawn steel)**と呼ばれる高強度ワイヤーです。この素材は炭素とマンガンを含有しており、熱処理や加工によって反発力や耐久性が変わります。
特に注目すべきはマンガン含有量です。マンガンが多いほど金属の弾性や復元力が増し、長期間使ってもヘタりにくくなります。高級モデルでは「高マンガン硬鋼線」「SWRH82B」など素材のグレードが明示され、耐久性や高級感をアピールするポイントにもなっています。
一方で、低価格モデルではマンガン含有量が少なく、長期使用で反発力が落ちやすいこともあります。見た目や寝心地だけでなく、素材の質をチェックすることが長期的な満足度につながります。
コイル配列と種類による違い
配列と種類の基本
-
直列配列と交互配列で寝心地が変わる
-
ポケットコイルとボンネルコイルで構造が異なる
-
配列や構造が「線径・コイル数・巻き数」の効果を左右する
マットレスは、同じコイル線径やコイル数であっても配列や構造によって寝心地が大きく変わります。特にポケットコイルでは「直列配列」か「交互配列」かで支え方に差が出るほか、構造そのものが異なるポケットコイルとボンネルコイルでは寝心地や耐久性の傾向も違います。
直列配列と交互配列の特徴
直列配列
・コイルが縦横に規則正しく並んでいる構造。
・面積あたりのコイル数が多くなるため、体圧分散性が高い。
・柔らかく繊細な寝心地を実現する一方、やや沈み込みやすい。
交互配列
・コイルを互い違いに並べることで、隙間を減らした配列。
・反発力が高く、安定感のある寝心地。
・直列配列よりコイル数は少なくなるが、硬めでしっかりした感触になる。
同じ線径でも、配列によって「柔らかい or 硬い」と感じ方が変わるのがポイントです。
ポケットコイルとボンネルコイルの違い
ポケットコイル
・コイルが不織布の袋に独立して包まれている構造。
・ひとつひとつが独立して沈むため、体圧分散性が高く、横揺れが少ない。
・線径やコイル数の違いが寝心地に直結しやすい。
ボンネルコイル
・コイル同士が連結されている構造。
・面で支えるため反発力が強く、耐久性に優れる。
・一方で横揺れが伝わりやすく、体圧分散性はやや劣る。
高級感のある寝心地を求めるならポケットコイル、コストパフォーマンスや耐久性を重視するならボンネルコイルが選ばれる傾向があります。具体的な「ボンネルコイルとポケットコイルの違い|腰痛にはどっちが良い?」は別記事で紹介しています。
配列・構造が線径・コイル数・巻き数に与える影響
- 線径が同じでも、直列配列なら柔らかめ/交互配列なら硬めに感じやすい
- コイル数が多くても、交互配列では反発力が勝ちやすい
- 巻き数が多い柔らかめ仕様でも、ボンネル構造だと「硬さ」を感じやすい
つまり、線径やコイル数・巻き数は単独では判断できず、配列・構造との組み合わせで最終的な寝心地が決まるといえます。
仕様を見るときのチェックポイント
ポイント
- 線径・コイル数・巻き数は必ずセットで見る
- 体型・寝姿勢・使用環境(湿気、耐久性重視かどうか)を考慮する
- 詰め物やカバー素材との総合バランスが重要
マットレスの仕様は、ひとつの数値だけで性能を判断するものではありません。線径・コイル数・巻き数は相互に関係しており、組み合わせによって寝心地が変わります。また、同じ仕様でも体型や寝姿勢によって感じ方が異なるため、自分の使用環境に合わせて考えることが大切です。
さらに忘れてはいけないのが、詰め物(ウレタンやラテックスなど)やカバー素材の存在です。スプリングの特徴を生かすも殺すも、外層の構造次第。コイル仕様を確認するときは、必ず総合的にチェックすることが失敗しない選び方のポイントです。
専門家が教える!体型・寝姿勢別おすすめ仕様
体型・寝姿勢別おすすめ仕様
- 体重が軽い/女性 → 細め線径+多コイル
→柔らかめで体圧を分散しやすく、肩や腰の圧迫を和らげます。体重が軽い人は沈み込みが不足しがちなので、細め線径と多コイルで繊細に支えるのが理想です。 - 体格が大きい/男性 → 太め線径+中コイル数
→強い反発力で腰の沈み込みを防ぎ、安定感を確保。コイル数は多すぎず中程度にすることで、硬さと支えのバランスが取れます。 - 横向き寝 → 細め線径+多巻き数
→肩や腰が深く沈み込むため、圧迫をやわらげる仕様が適しています。巻き数を多くすることで柔らかさが増し、横向きでも自然な姿勢を維持できます。 - 仰向け寝/腰痛持ち → 太め線径+やや高コイル
→腰部をしっかり支えることで腰椎の沈み込みを防ぎ、理想的な寝姿勢をキープ。高さのあるコイルを組み合わせればクッション性も加わり、硬すぎない安定感が得られます。
体格や寝姿勢に合った仕様を選ぶことは、快眠と腰痛予防に直結します。
軽量の方や横向き寝には細め線径+多コイルで柔らかさを、体格が大きい方や腰痛持ちには太め線径+高コイルで安定感を。数字の違いを“自分の体にどう作用するか”で捉えると、最適なマットレスを見極めやすくなります。
まとめ|仕様表を理解すればマットレス選びで失敗しない
- 線径=硬さ
- コイル数=支えの精度
- 巻き数=フィット感
- 圧縮率・高さ・素材=耐久性や寝心地の微調整要素
マットレスの仕様表は、単なる数値の羅列ではなく「寝心地を科学的に示した設計図」です。線径・コイル数・巻き数という基本の3大要素に、圧縮率や高さ、素材の情報を加えれば、さらに精密に自分に合った一枚を選びやすくなります。
つまり、仕様の見方を理解することこそが、最良のマットレス選びにつながる最大の近道です。購入前にスペックを正しく読み解ければ、「思っていた硬さと違う」「数年でヘタってしまった」といった後悔を防ぎ、長く快適に使えるマットレスに出会えるでしょう。
今 真一